日本ヘルスツーリズム学会 設立趣旨
現代社会は、平均寿命と健康寿命の乖離、非感染性疾患(NCDs)の増加といった深刻な健康課題に直面しています。これらの課題に対応するためには、従来の疾病治療中心のアプローチに加え、予防医学的観点からの介入、すなわち個人の行動変容を促し、生活の質(QOL)を向上させるための科学的アプローチが不可欠です。
このような背景のもと、「ヘルスツーリズム」は、極めて高いポテンシャルを有する介入手法として注目されます。ヘルスツーリズムとは、単なる観光に健康活動を付加したものではなく、転地効果や自然環境、地域資源等を活用し、医学的・健康科学的エビデンスに基づき、個人の健康増進、QOL向上、ひいては持続的な健康行動へと導くことを目的とした、計画的かつ体系的なプログラムの総体と定義されます。その効果は、生理学的・心理学的指標の改善に留まらず、社会経済的なインパクトにも及ぶ可能性を秘めています。
しかしながら、その実践と普及を持続可能なものとするためには、効果測定手法の標準化、介入プログラムの有効性評価、長期的な健康指標への影響に関する縦断研究といった、学術的基盤の構築が急務となっています。この学術的要請に応えるべく、我々は「日本ヘルスツーリズム学会」を設立しました。本学会は、以下の活動を柱とし、日本におけるヘルスツーリズム研究の中核的拠点(ナショナルセンター)となることを目指します。
研究の深化と体系化: ヘルスツーリズムがもたらす生理学的・心理学的効果のメカニズム解明、行動変容プロセスの分析、費用対効果の検証など、多角的な研究を推進し、その学問体系を構築します。
学際的プラットフォームの構築: 医学、体育・スポーツ科学、観光学、栄養学、心理学、社会学、経済学、工学など、関連する多様な学術領域の研究者が結集し、領域横断的な知見を交換・融合させるための学術的ハブとしての役割を担います。
エビデンスの構築と社会実装: 厳格な科学的手法に基づいたエビデンスを蓄積し、効果的なヘルスツーリズムモデルを開発します。これらの研究成果を、政策提言や産業界への技術的指針として社会に還元し、実装を促進します。
学術交流と人材育成: 国内外の研究機関との連携を強化し、学術大会や研究会を通じて最新の知見を共有するとともに、次代を担う研究者や高度専門人材の育成に貢献します。
本学会の設立が、日本におけるヘルスツーリズムの学術的発展を加速させ、ひいては国民の健康寿命の延伸と持続可能な社会の構築に資することを確信しております。関連諸領域の研究者、実務家、そして本領域に関心を持つすべての皆様の積極的なご参画を心より期待しております。
令和7年7月吉日